ある日の本箱

海外の児童書を中心に読んだ本の感想などを公開しています。

新しい訳書『ぼくと石の兵士』

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新しい訳書の『ぼくと石の兵士』

作品のイメージにぴったりの絵を描いてくださったのは早川世詩男さん。

カバーと表紙でちがう絵も楽しめて、遊び心いっぱいです。

 

 物語の舞台はイギリスのとある町。主人公のオーエン少年が、公園の石像の兵士に特別な思い入れを抱き、やがてその兵士を守るため、勇気を奮って立ち上がるさまが生き生きと描かれています。オーエンにとって、なぜこの兵士像がそこまで大切なのか? その答えは、ぜひ本を読んでみてください。

 

 この主人公のオーエンという名前ですが、個人的には、イギリスの戦争詩人のウィルフレッド・オーエンから付けられたのでは? と思っています。詩の授業の場面で、戦争詩人のルパート・ブルックが登場しますが、ルパート・ブルックの好戦的な詩に対し、ウィルフレッド・オーエンは反戦的な詩で知られます。戦争がもたらす悲しみを、身をもって知る主人公の名前として、まさにぴったりな気がします。

 ストーリーの中で、オーエンたちも思い思いの詩を披露しますが、ちょっとためらいながらも、自由に詩に取り組む様がとても印象的です。詩というと、なんだか難しそうなイメージがあったのですが、心のハードルが下がった気がします。

 

 心のハードルが下がる、といえば、この作品、読みやすさにこだわった工夫も凝らされています。文字の読み書きに困難を抱えている人でも読みやすいよう、ディスレクシア・フレンドリー書体が使われているのです。ディスレクシアといえば、以前訳させていただいた『ぼくとベルさん』の主人公エディもそうでした。読みたいのに読めない、そんなもどかしさを抱える人が、自由に本の世界を行き来できるよう、後押しする作りになっているのです。

 今回、日本語版でも同じような試みができればということで、本文にUD(ユニバーサル・デザイン)フォントを使用しています。紙も真っ白ではなく黄味がかった色で、読みやすさを意識した作りになっています。

 この『ぼくと石の兵士』、原書は“Owen and the Soldier”というタイトルで、今年初めにイギリスで刊行されました。著者のリサ・トンプソン(Lisa Thompson)さんは、2017年のデビュー以来、独創的な作品を次々に発表されています。『ぼくと石の兵士』のオーエンが家庭の中に困難を抱えていたように、他の作品でも困難を抱えた子どもがよく登場します。その他の作品につきましても、またご紹介していけたらと思います。

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