ある日の本箱

海外の児童書を中心に読んだ本の感想などを公開しています。

訳書紹介『魔女だったかもしれないわたし』

日本語版とその原書

2022年8月にPHP研究所さんから刊行された小学校高学年向けの読み物です。

自閉スペクトラムの少女が主人公の物語で、著者のエル・マクニコルさん自身も自閉スペクトラムです。

「魔女」というと、今日ではファンタジーの主人公やハロウィンの衣装でおなじみですが、中世ヨーロッパでは、「魔女」とされた人たちは「魔女裁判」にかけられ、命を奪われることもありました。

その「魔女裁判」が自分の暮らす村でも行われていたことを知った主人公は、さらに調べるうちにその「魔女」たちが自分とよく似ていたことに気づきます。

もし「みんなと違う」というだけで罪になるのなら、自分も同じ運命にあっていたかもしれない。しかも、それが決して過去の話ではなく、今も同じような考え方が残っていることに主人公は危機感を覚えます。

「過ちを過ちとして認めないかぎり、また同じ過ちが繰り返されかねない」、そう感じた主人公は魔女の慰霊碑づくりを村の議会に訴えていくのですが……。

自閉を脳の多様性(ニューロダイバーシティ)の視点で描いている点でも画期的な作品で、2021年ウォーターストーンズ児童文学賞、ブルーピーター・ブック賞、2022年シュナイダー・ファミリーブック賞オナーをはじめ、数々の賞を受賞しています。

「多様なものを認め合える世の中であってほしい」そんな著者の熱いメッセージが伝わる作品です。